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日曜日、朝の報道番組では来年の大統領選挙が特集されていた。 インタビュアーは石田礼子。留学経験者だけあってネイティブスピーカーのように流暢に、そしてエレガントに話を進めていく。 光広は、最近、礼子がテレビに出ていても、前ほど熱心にはみていない事に沙希は気が付いていた。 「石田さん、今、アメリカにいらっしゃるのね」 「あぁ、そうなんだ…」 画面も見ずに生返事を返す光広をみて、やっぱりそうなんだ、と、沙希は確信した。 今週は光広の帰宅が早い。週末も出掛ける予定はないと聞いている。 彼女がアメリカに出張中だからかしら…? ここ最近、深夜に帰国した光広の香りはいつも同じ香りだった。 銀座帰りの光広は、その時々、違う香りで帰ってきた。フローラルなジャスミン、ローズの時は『今日はお若い女性なのかしら』、濃厚なゲランの時は『ちょっと年齢高めの方かしら…?』 最近はいつもサンダルウッドが残る香り。ニナリッチのレールデュタン。 石田礼子だ。確信した。そうなのだ。 ファッション誌の中での対談記事で礼子自身が話していた。 「毎日の生活の中で何かこだわっていらっしゃる事はありますか?」 「特別な時間を持つ時には必ずこの香りと決めています。ニナリッチのレールデュタンです」 あぁ、これなのだ。光広の最近の香り、サンダルウッドが残るこの香りは石田礼子のレールデュタンだったのだ。 色々な事が繋がった。
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