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沙希は子供の頃からずっと猫を飼っていた。彼女は猫と一緒に育ったと言っているくらいだ。 そのせいもあるのか雰囲気も猫っぽい。可愛い顔をして甘えてくるのかと思えばスルリとすり抜ける。つかみ所がない。血統書付きの猫だ。そんな彼女をつかまえて光広は結婚した。 まぁ、結婚の時期は沙希の母親から急かされたから、思いがけず早くなったのだけれど。 女性にとって良い時期に妊娠出産できたのだから丁度良かったと、今では思ってる。 ただ、もう、女ではない。妻であり、あの娘達の母親なのだ。 しばらく忘れていたドキドキ感、男女の駆け引き、甘い時間。 決して手に入ると思ってはいなかったものを手に入れた達成感、そんな感覚を持たせてくれたのが礼子だ。 もちろん、結婚してからも銀座の店で楽しく女性達と関わってきた。でも、それはその場のノリと駆け引き。その場限りの付き合いだ。 礼子は違う。30代の頃の自分ならとてもじゃないが手を伸ばせなかった相手だろう。 仕事もバリバリこなし、ある程度の経済的余裕、社会的地位を手に入れた今だからこそ、手を伸ばす事ができた。 安定した家族と、最高に輝いたパートナー。両方を手にした自分に、光広は満足していた。 そんな毎日がずっと続くものだと思っていた。
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