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「専属家政婦さん」か。 まぁ、ピッタリ当てはまる言葉だな。光広は礼子が時折沙希を馬鹿にするような発言を黙認している状態だ。 元々、結婚するまで沙希は家事をした事が無かった。大学卒業後は国立博物館で働いていた。博物館の館長秘書をしていたが、館長の宮本博士は世界的にも有名な民族学者で、そのサポート役として沙希自身も忙しかった。最適な後任者がなかなか見つからず、結婚後も、そして出産予定日直前までフルタイムで仕事をし、挙げ句の果ては出産入院中も「来月、フランクフルトの学会で使いたい資料が~」と、電話がかかるほどだった。 結婚してからは初めての料理に奮闘していたし、元々、キレイ好きなので掃除洗濯はきっちりとしてた。アイロン掛けも完璧だ。 「唐揚げが食べたい、って光広が言うから揚げようとしてるんだけど、やっぱり油が跳ねる! 怖い!」という沙希に変わって、下準備された鶏を光広が揚げて、一緒にキッチンで料理した、そんた時もあった。 沙希の妊娠中は悪阻が酷く、光広が食事を用意していた時期もあった。 何時から沙希が『専属家政婦』の状態になったのか。 わからない。いつの間にか光広が沙希を女としてみなくなっていた。光広の中で、家族、娘達の母親としての沙希しか存在しなくなっていた。
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