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「え、パパ、なんでうちにいるの?」 「おぅ、久しぶりだな。全然顔見てなかったけど、遊びすぎじゃないのか?」 「その言葉、そっくりそのままパパに返すわ」 光広が土曜日の昼間に家にいるのは何ヵ月ぶりかだった。 そして娘達と言葉を交わすのも久しぶりだった。 「パパ、深夜に帰って来て洗濯物増やしていくだけだもんね」 「そんな事、言うなよ~。パパ、みんなの為に頑張って仕事してるんだから」 「は? みんなって、誰? 変なの」 家のリビングに光広がいる、そんな状態に光希と沙恵は戸惑っていた。 ベランダに干された洗濯物。光広の物しか干されていない。 「えっ? みんなの洗濯物、干されてないけど… ランドリーに、あったよな?」 「パパの物と私達の物、分けて洗ってるよ。パパの臭いから」 「加齢臭とか言うなよ… 気ぃつけてるんだぞ。そんな臭わないだろ。パパ、キズつくわ~」 「パパ、臭い。加齢臭じゃないよ、もっと不潔な臭いなの!」 沙恵はそう言ってリビングを出て行った。 「……」 「あ、ママは? 東急ストア…? 買い物行ったのか…?」 なんとも居心地の悪くなった光広はその場の空気を変えたくて、リビングに残っていた光希に話しかけた。 「ママは仕事。また宮本先生の所で仕事してるの、パパ、知らなかったの?」 「…」 光広は沙希から仕事を始めた事を聞いていなかった。 このところ家に帰っても、殆んど何も話していなかったし、何も聞いていなかった。 整えられた部屋、温かく栄養バランスの良い食事。もちろん美味しい。洗濯され、手入れされた服。 以前と変わらず、全て沙希が整えてくれていた。何も変わりはないと思っていた。 『今日は久しぶりに家族で食事に行こうか。いや、急だと光希も沙恵も友達と約束しているかもしれないな。たまには夫婦でディナーもいいか。沙希の機嫌も良くなるだろうし』 光広は呑気に考えていた。
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