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「光希と沙恵はまだしばらく帰ってこないから、それまでに話があるの」 「えっ…? 改まって、何…?」 「あなたには、この家を出ていってほしいの。別れましょう」 「えっ… どういう…」 「もう、一緒にいるのはイヤなの。あなたの都合のいい家政婦は嫌なの。あなたは彼女の家にいくなり、自分で部屋を借りるなりして、取りあえず出ていって下さい。元々、家を買う時の頭金はうちの父から貰ってるし、所有権も私と半分ずつでしょ。慰謝料として家を私と娘に渡してちょうだい。イヤだってゴネるなら、石田礼子と夫が不倫してる、略奪された、ってSNSで広げるから」 「ちょ、ちょっと待ってよ、何…? どういう事…?」 「そういう事よ。ずっと、我慢してたの。やっと今日、あなたと二人で話せる時間ができたの。光希と沙恵がいる時に、こんな話、したくないのよ。あなた達の母親は夫の家政婦でしかない、情けない女で、軽んじられてます。だからその夫は外でキラキラした女性と楽しく過ごしてます、って、聞かせたくないでしょ」 「そういう事だからできるだけ早く、明日にでも出ていって。」 「もう、あなたが持って帰ってくるあの人の香りに耐えられないのよ」 「離婚なんて、するつもりないよ。第一、光希と沙恵… まだ、学生だろ、親が離婚だなんて…」 「あの子達もあなたの匂いがもうイヤなのよ。パパ臭い、って嫌がってる。光希も沙恵も、もう、子供じゃないのよ。あなたのしてる事、わからないわけないでしょ」 「あ、それから、卒業するまでの学費は払ってね。一応、父親面したいでしょ。彼女はもう、子供作れないだろうし」 「ど…どうして彼女の事」 「気が付かないわけないじゃない。あの人と知り合ってからのあなたの浮かれ方、バレバレよ。中学生じゃあるまいし」 「それに彼女の匂い、あなたに染み付いてるわよ。ホント、ずっと彼女があなたにつけた匂いに、おかしくなりそうだったわ」 「何時からその匂い、させてきたか、日にち、言おうか? カレンダーに記しいれてるから」 「…」 「明日、ちょうど、日曜日でしょ。必要な荷物持って、出ていって下さい。離婚の事、しっかり書面にしたいから、月曜日に司法書士さんのところ、行ってきます」 「ホ、ホントにそれで良いのか…?光希と沙恵も、この事知ってるのか…?」 「二人に確かめてみたら? パパ臭い、って言ってるわ。もう、子供じゃないのよ。わかってるから」 「離婚の事、条件も含めてゴネるんだったら、ホントに石田礼子の名前、出すわよ。あなたの大切な石田さん、不倫スキャンダルは困るでしょ」 「一番大切なのは、お前と光希と沙恵だよ。それはずっと変わらない!」 「いい加減な事言うの、本当にやめて。いつの間にか、『お前』、って呼ばれてて… それも、うんざりなの。親からも『オマエ』って呼ばれた事、なかったわ」 「あの娘達はともかく、私はいつの間にかあなたにとって家政婦だっただけでしょ」 「そんな事…」 「家政婦だったわ!」
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