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光広は大手商社で働いている。商社といっても工学部出身なので、仕事は主に海外へのインフラ整備のプロジェクト。海外出張が多い。長い時には半年程行ったきりだ。 世界情勢が気になるのと英語スキルアップの為、家にいるときもニュースは英国BBCか米国CNN。タブレットにはアルジャジーラやチャンネルニュースアジア等、中東やアジアのテレビ局のアプリまで入れている。 もともと社交的で、仕事柄、欧米人との付き合いも多く、ワールドカップの試合があると、外国人の友人達とは現地集合で観戦。サッカーだ、ラグビーだ、と、忙しい。今回はラグビー。休みが取れなかったので現地観戦はできず、都内のスポーツバーで仲間と集合するらしい。 結婚した頃は沙希も一緒に行っていた。しかし元々、スポーツ観戦に興味があったわけではなく、妊娠、出産を機に沙希は光広と彼の観戦仲間との外出はしなくなった。育児でそれどころではなくなった。 光広が長期出張で不在でも、年子で生まれた娘達を無事に育てられたのは、実家の両親の助けがあったからだ。光広の実家の義両親も優しく、良いお付き合いができている。ただ、田舎で遠い。新幹線と在来線を乗り継いで4時間程かかる。沙希の実家は車で1時間程。何時も母が駆け付けてくれた。 「義母さんには感謝しきれないね」と光広も常々言っている。 娘達も大学に入学し、毎朝のお弁当作りもなくなった。子育てに手が掛からなくなった事だし、沙希はそろそろ夫婦二人でオシャレな場所に出掛けたり、のんびり旅行にでも行きたいなぁと思っている。 しかし、光広は会社での役職も上がり、若い時のような長期の海外出張は無くなったものの、忙しい事には変わりない。平日は仕事、接待、週末はスポーツジムかゴルフと決まっている。 「一流のクラブに行くと一流の人脈ができる」 「仕事はデスクワークばかりだから週末はしっかり身体を動かさないと。ダブついた身体はみっともない。NYのビジネスマンでダブついてるヤツなんていかいよ」 とのこと。 行きつけの銀座のクラブからはバレンタインの頃には何時も宅急便でダンヒルの靴下が届く。添えられたカードには 「いつも引き締まったお身体にダンヒルのスーツがよくお似合いです」などと書かれている。 彼は彼が格好いいと思う生活をしているのだ。
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