19 五年後

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「もう、あまりそんな事しなくてもいいんじゃないの。痛そうだし、つらそうだよ。そこまでしなくも、礼子は十分、魅力的だよ」 「礼子の魅力は若さや見た目じゃないでしょ。だいたい、美人とか綺麗とか、人の好みそれぞれで、主観的なものでしょ」 礼子が積極的な美容医療にのめり込む様子に、光広は心配していた。 ダウンタイム中、腫れが酷い時は自分の部屋に閉じ籠る日が続く。光広の前にも極力、出てこないのだ。食事も取らない。 ダウンタイムが終わると、また以前の礼子に戻ったように外に出て仕事をする。 そんな事を繰り返していた。 「私には誰もが認める客観的な美しさも必要なの。私が年取って綺麗でなくなったら仕事も無くなるし、あなたも他所にいくでしょ」「光広、最近、私を抱かないじゃない。劣化した私はあなたにとってもう女じゃないんでしょ。男はみんなそう。私の父親だって私達を捨てて若い女と一緒になったのよ。あなただってそうでしょ。子供を産んでオバサンになった沙希さんより、若くなくても世間から『美しすぎる解説委員』って言われる私が良くなったんだし」 「私が劣化したから私より若い女と食事してるんじゃない。あの店で一緒に食事してるの見たわよ」 礼子に返す言葉が見つからなかった。 実際、最近は礼子と交わる事を避けていた。 極端に太る事を嫌っている為、礼子の身体は細い。交わると骨が当たって痛いのだ。礼子の身体を壊してしまいそうで、それもおそろしい。 「誰だって年をとるよ。僕だって同じように年をとったよ。体力も前より無くなってる。でも、そんな事気にしてもしょうがないでしょ。礼子の魅力はそこじゃないでしょ」 「あの店は会社も近いし、同僚の女性も来るんだよ。偶然だよ」 猜疑心が強くなった礼子への対応が難しくなってきた。どうすれば彼女を安心させる事ができるのか。
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