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「こんな女性になってほしいよな、光希と沙恵には」 夫である光広が見ていたテレビには、中東産油国のリーダーにインタビューしている国際情勢解説委員の石田礼子さんが映っていた。 石田さんは彼のお気に入り。彼と同い年で49才。東大文一卒業、米国留学後、テレビ局へ。女子アナではなく解説委員をしている。 白いシャツに黒のパンツスーツ。シルク素材の光沢が美しく、白黒でも喪服の様に地味な印象にはけっしてなることがない。顔が動くたびに、大粒ダイヤのピアスにライトがあたり、キラキラと光を放っている。 「俺も東大に入っていたら同級生だったのになぁ」 「同じ大学でも、文系の彼女と理系のあなたでは会うことはなかったんじゃない?」 光広は東大志望だったが一次試験で少し失敗、東工大に進学し、エンジニアになった。少々、東大への憧れとコンプレックスがあるようだ。 「こんな美人なんだからキャンパスにいたら特別目立つよ」 「こんなに美人で頭も良くて… だから独身なのかもな。普通の男は近付けないでしょ。高嶺の花すぎて。光希と沙恵には石田さんみたいな女性になってほしいよな。まぁでも、普通に結婚して子供も産んでほしいかな」 光広は石田さんの存在を知ってから、彼女にたいそうご執心だ。熱量が凄い。今まで誰かのファンになった事がない人だったが、彼の中では石田さんがアイドル的な存在なのだろう。 それにしても、娘達の事を「石田さんみたいな女性になってほしい」と、妻である、私に言う事なのか…? 沙希は少しモヤモヤした。
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