12人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
🎹
子供の頃、私は音楽の成績が悪かった。
合唱は得意だったけど、その他は全部苦手で。
すっかり大人になった今でも、楽譜は読めないし演奏もできない。
でもカラオケは好きで、流行りの歌もわりと歌える。
若い頃から、難しい歌に手を出したがる私は、自分でも気づかないうちに言っている口癖のようなものがあった。
上手く音を取れなかったり、上手く声を伸ばせなかったりしたとき、
「黒鍵のせいだ」
と他責する癖があると、長年連れ添った夫が言っていた。
黒鍵。
音楽がちんぷんかんぷんな私にとって、これは未知の領域と言っても過言ではない。
♯だか♭だか分からないが、とにかくこの黒い鍵が醸し出す音は、妙に落ち着かない不安定さがあって、時にすごく音痴になっちゃう。
変化を望まず、安定を欲し、今と変わらない未来が続くと思っている私は、自分のことでさえ変化をさせられず、安定を求めるがあまり仕事優先で、むしろ退化していることに気づきながら、その実感がない。
そうすると心は自己保身に走り、保身が唯一のプライドになる悪循環。
どうにかしたいと思っても、肝心な場面で守りに入ってしまう。
自分自身の内面に無数の黒鍵があるようで、上手く音をとれず、伸ばすところを伸ばせない。
黒鍵とは、やはり未知の領域と言わざるを得ない。
こんな自分をすべて受け止めてくれるような恋があれば、心を上手く操れるだろうか。
とは言え、何事も保守的な私だから、不倫なんて夢のまた夢。
容姿に自信があるわけでもなし、今更新しい恋など出来ようはずもない。
最初のコメントを投稿しよう!