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というわけで、妄想彼氏を考えてみた。 顔はこうで、声はこうで、性格は優しく寛容で、お金持ちで、私に怒ることがなくて、何だって許してくれる人。 妄想はとても自由だった。 完璧な彼氏なのに、他の女と取り合いにはならない。いつでも私に一途で、優柔不断な私をリードしてくれる。 こんな人がいてくれたらな、と妄想しながら、つまらない日々を過ごしていた。 違和感を覚えたのは、夫と久しぶりに楽しく飲んでいたときだった。 私の中の妄想彼氏が言ってくれる言葉を、夫は口にしている。 優柔不断なところはリードしてくれるし、私の不出来な部分を可愛いなどと言ってくれる。 どういう気の迷いだろうか。 夫はいつも不機嫌で、夫婦関係は冷めてしまったはずなのに。 妄想彼氏を夫に置き換えている? いやいや、私の妄想彼氏は完璧な男性だ。夫は私にとって黒鍵のように扱いづらい存在。似ても似つかぬ違う種族⋯⋯。 と、お酒に酔いながら思考を整理していくと、私は驚愕の事実に気づいた。 あれほど完璧だと思いこんでいた妄想彼氏は、結婚したばかりの頃の夫のコピーじゃないか。 お金持ちという点を除けば、あとはすべてあの頃の夫に瓜ふたつ。 私が思い描く理想の男性は、紛れもなく夫でしかなかった。 ならばどうして夫婦関係が冷め切ってしまったのか。 夫はいつも私の至らぬ点を指摘してくれただけ。人としてだめなところを教えてくれただけ。 それを私が保身で逃げて、その場限りの言い訳に終始していたから愛想を尽かされた。 私も夫も、お互いに年をとった。 持病はあるし、加齢に伴う悩みも増えた。 だけど夫は、いつでも私を気にかけてくれていた。 その分、私は夫の話を聞いてあげていたの? 責められていると勝手に思い込んで、自分の保身ばかりしていなかった? 夫婦二人、夫は常に白鍵で、私は常に黒鍵だった。 夫婦二人、夫は常に正論で、私は常にそれを耳障りに感じていた。 私だってつらいと、私だって疲れていると、私だって眠いと、夫のまっすぐな心に対して、私だって、私だって、私だって⋯⋯。 何か言われたら、ごめんなさいばかり言って、謝ってるんだから許してよという態度で火に油を注いで。そりゃあ不機嫌にもなるわ。
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