1/1

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

 でもある日、母の髪を梳かしていると、首筋に黒い痣が見えた。  うずまき状の紋様。指紋に見える。  いくらなんでも指紋が痣として残るわけがない。  きっとインクか何かで手が汚れていたんだと濡れたタオルで拭いてみたが、指紋の痣は消えなかった。  嫌な予感がする。  これがバレては私が虐待していると疑われる。事実そうであっても、警察やヘルパーさんに見つかってはいけない。  痣が消えるまでの期間、私は母を家に閉じ込めた。  もちろん、首を絞めるストレス発散もやめた。  それなのに、痣はどんどん鮮明になっていき、母の首には黒い指の痕がくっきり見え続けた。  トイレに行くのもおぼつかない母は、歩くたびにテーブルなどに体をぶつける。  ぶつけた箇所が痣になるのだが、その痣にも指紋のような黒い紋様がつくようになった。  母が寝ている隙に、その紋様を写真に撮って、パソコンで私の指紋と比較してみると、完全に一致するぐらい同じだった。  日に日に母の体に、黒い指紋の痣が増えていく。  故意にぶつけてるようであちこちに痣を作る母が恨めしい。  介護をしていると、触りたくなくても肌に触る機会は多い。  私が触れた箇所には、まるで私がそこを強く握りしめたような指の痕がつく。  母の体が黒い指紋だらけになり、気が狂ってしまいそうだ。  とにかく外に出してはいけない。  人の目に触れさせてもいけない。  母を監禁し、私も一緒に引きこもるようになった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加