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疲
幻聴が聞こえる。
母の嫌味な声で、
「おまえのせいだよ」
「おまえのせいだよ」
「おまえが悪いんだよ」
と責任をなすりつけてくる。
刑務所の夜、薄闇にまぎれて、黒い手の影が私の首や腕を掴みにかかる。
振り払っても捕まり、息が詰まるまで締めつけられる。
私の体にも、黒い指紋がつくようになり、自分の指と見比べると、それは予想通り自分の指紋に見えた。
母は死んで怨霊となっても罪を逃れたいようだ。
私は自責のために自傷しているという形に見えるんだろう。
自分の指紋が私を侵食してゆく。
心を指紋で塗りつぶされて、私は絶望感に苛まれて。
こんなことになるなら、黒い指紋が現れる前に母を殺しておけば良かった。
私は黒く染まってゆく。
だけど、殺すべき相手はもういない。
自由な怨霊となった母に抗うには、私が地獄まで逃げるしかないのだろうか。
地獄で再会してしまいそうだから、それもできないのだけれど。
生きていくことにも、考えてしまうことにも、私は虚しくなって頭をかすめる言葉は一つ。
(疲れた)
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