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「すみません、三上先生が説明している最中に、咲ちゃんが突然、部屋を飛び出してどこかに行ってしまったんです」
「咲ちゃんが!?」
師長が驚いた顔をする。
「師長、一緒に探していただけませんか。たぶん、おじいさんの急死にショックを受けてパニックに陥ったと思うんです」
前田はその「咲ちゃん」という子がカーディガンの持ち主なのだとすぐさま理解した。西成は皆に向かって言う。
「それでは実況見分は一旦中断ですね。皆で咲ちゃんを探しましょう。院内放送でも呼びかけて下さい。私も探しますので、咲ちゃんの特徴を教えていただけませんか」
師長がてきぱきと答える。
「はい、年齢は十歳、ツインテールの髪型をした丸顔の子です。花柄のシャツとグレーのチュニックスカートを着ていました」
「見つかったら院内PHSで師長に連絡をします」
「ほんとうにすみません、西成先生にそんなことまでお願いしてしまって」
「いや、構いませんよ。これも重大なトラブルのひとつですから」
まもなく院内全域で咲の捜索が開始された。全館放送で呼びかけ、看護師たちは病室や女子トイレの中をくまなく探す。けれど咲の姿はどこにも見当たらなかった。
西成と前田は別れてそれぞれ病院のエントランスと裏口の守衛に確認を取ったが、病院を出てゆく子供の姿はなかったとのことだった。
前田と西成は再度合流する。
「西成先生、裏口からは出ていっていないようです」
「そうですか、エントランスのほうにもいませんでした。念のために守衛に防犯カメラの録画ビデオを確認してもらいましたが、咲ちゃんらしき子供の姿は見当たらなかったそうです」
「じゃあ、まだ院内にいるんですよね」
「そのはずです。今しがた師長に確認しましたが、まだ見つかっていないそうです」
「そうですか。咲ちゃん、いったいどこに……」
「では一度、『診療部門特別相談室』に戻ってよろしいでしょうか」
西成は真剣な表情でそう言い出した。前田は無言で首を縦に振る。西成が解決のために思考を巡らせるのは、その部屋だと決まっているのだ。
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