【第三話 怪異の復讐劇】

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それは夜嵐(よあらし)が訪れた翌日のことだった。 東山総合病院に出勤した前田美穂(まえだみほ)は、職場の雰囲気にどことなく違和感があることに気づいた。病院の入り口にはパトカーが一台停まっていたし、上司の西成仁(にしなりひとし)は普段よりも早く出勤し、なんらかの仕事に取りかかっているようだった。卓上に鞄が置いてあった。 廊下ではせわしなく行き来する事務員の姿が目につき、医局では医師たちが集まり神妙な面持ちで話をしている。 西成の秘書である前田は、病院に勤務しているとはいえ医療従事者とは言い難い立場だ。だから患者情報が耳に届きづらく、もどかしいと思うところだ。 立ち込める事件の匂いに胸がざわめき、いてもたってもいられなくなった。荷物を置いてひとり病棟に足を運んだ。 すると不穏な空気の原因は形成外科病棟にあった。前田は看護師長の佐分利(さぶり)に尋ねる。 「なにがあったんですか、佐分利さん。皆、そわそわしていますけれど」 佐分利はいささか慌てた様子で事情を説明する。 「殺人未遂事件よ、それも女子高の生徒が三人!」 「殺人未遂、ですか!?」 指を三本立ててはいるが、昨夜、形成外科病棟に入院したのはひとりだけのようだ。ホワイトボードの新規入院患者欄に『三田村薫(みたむらかおる)』とだけ書かれている。彼女が傷を負って入院した被害者なのだろう。 「しかも三人いっぺんって、通り魔でしょうか……」 この都市は、治安は良いほうだと聞いていたが、殺人未遂事件と聞いて前田は肝を冷やす。けれど師長が口にしたのは前田の想像を超える出来事だった。 「違うのよ、その三人が互いにナイフで切りつけあったのよ!」 前田は驚きで一瞬、声を失った。 「同じクラスの友達同士だっていうのに、信じられないわねぇ」 佐分利は来院時に撮影された写真を前田に見せた。卵のような滑らかな頬がぱっくりと割れ、赤黒い肉が露出している。無惨にも血で染められた女子高生の顔写真は見るに耐えかねた。 なるほど、警察が来ていた理由も納得できる。三人は被害者であり、同時に加害者でもあるのだ。 「どうしてこんなことに……」
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