【第三話 怪異の復讐劇】

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それに西成は「警部」と言ったが、前田が仕事で関わったことのある「警部」はもっと若い者ばかりだったことを思い出す。もしかしたら、功を焦っているノンキャリアなのかもしれないと想像した。 「よろしくお願いします、大林警部。西成先生の秘書の前田です」 「ああ、秘書さんですか。法律家ではないんですね」 「ええ、まあ……」 大林の口調は前田を下に見ているような節があった。西成がすかさず大林に言い返す。 「警部、彼女は頼りになる私の部下です。だから彼女にも協力してもらおうと思っています。よろしいでしょうか」 「彼女にですか? ――ええ、まあいいでしょう」 疑問符を浮かべること自体が、失礼なことだと感じた。けれどなんの資格も実績もない前田は、湧き起こる心の(もや)を自身で処理するしかない。 身を引いてそろりとモニターを覗くと、もうひとりの被害者である『福山萌(ふくやまもえ)』の姿が見えた。『三田村薫』と同様、ベッドの中で怯えるように丸くなっている。 「しかし畠山先生、三人を診察したのに手掛かりひとつ得られないとは、どういうことなんですか」 いくばくかの苛立ちを見せながら、大林は急かすように尋ねる。 「彼女たちは皆、なにも答えませんでした。ですから彼女自身にも自分の行動が理解できていないのではないかと思います。冷静さを取り戻すまで待ちましょう」 大林は露骨に顔を歪めた。気づいた西成はすぐさま割って入る。 「それでは大林警部、得られた情報については私のほうから警部に連絡しますから」 「助かります、情報は共有したいので。弁護士さんであれば心得ているから安心です」 警察という仕事柄なのか、医療従事者すら信用していないような態度が垣間見える。けれど法を扱う弁護士に対しては違うらしい。 「彼女たちのスマホはこちらで預かっていますから、事件に関係するやり取りの内容が判明したらお伝えしますよ。だからそちらも上手いこと、事情を訊きだしてください」 大林はあたかも交換条件のようにそう言い、荒い靴音を残して病棟を後にした。
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