94人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
★
前田は、心配そうな眼差しで西成とともにもうひとりの入院患者の様子を確かめた。
三人目は『横山里奈』という名の女子高生で、やはり布団にくるまって身を隠し、恐怖に怯えているような姿だった。
「西成先生、まるで同じですね」
「そのようですね。誰が主犯、とかそういう問題ではなさそうに思います。それに畠山先生も今は刺激しないほうが良いとおっしゃっていました。そうなると真相の解明は難しそうです」
前田は話が進まず苛立つ大林の顔を思い出す。そこで抱いた疑問を西成にそっと尋ねる。
「さっきの警部は、西成先生にかなり信頼を寄せているように見えましたが、以前からのお知り合いなのでしょうか?」
「ああ、過去にとある案件で関わりがありましてね」
「どんな案件だったのか、差し支えなければ教えていただけますか」
「じつはですね、自殺の案件なんです」
「自殺――ですか!?」
「女子高生が自室で首を吊って亡くなったんです。当院に運ばれ、異状死体として警察を呼びましたが、事件性はなく自殺だと処理されました。大林警部はその時の担当だったんです。前田さんが就職する少し前のことです」
それはつまり、一年以内の出来事であり、比較的最近のことを指している。
「偶然、同じ方が担当されていたんですね」
「いや、事情は少々複雑です。大林警部の話では、自殺した女子高生は、今回の事件の被害者たちと同じ教室の空気を共有していたのです」
「同じクラスで起きた事件だったんですか!?」
「はい。だからそのクラスの事情を知っている大林警部が今回の事件の担当になったようです。警部の話によると、自殺の理由は明らかにされなかったようです。その女子高生の名前は、たしか――『桜田葵』と言いました」
西成の銀縁眼鏡の奥で、瞳が鋭い光を放ち、なにかを察知したかのように輝いていた。
最初のコメントを投稿しよう!