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病棟に着くと、看護師たちが監視モニターの前に集まっていた。皆、真剣な表情で録画された画像を確認している。
「どうしたんですか」
「ああ、畠山先生。これなんですけど」
畠山が尋ねると、担当の看護師が映像を指し示す。病室を訪れた今村優奈がノートをサイドテーブルに置き、二言三言、言葉をかける。けれど福山萌は布団にくるまったまま顔を見せようともしない。
そして今村優奈が病室を出ていった後、しばらくして福山萌がおもむろに顔を出した。ノートを手に取りぱらぱらとページをめくる。なんとなく目を通しているだけで、頭に入れている様子はない。
すると福山萌の手がぴたりと止まる。
突然、狂ったようにそのノートを壁に叩きつけた。
あっ、と前田は思わず声を上げた。
それから福山萌は必死にナースコールを探し、見つけると一心不乱にボタンを押し続けた。
看護師が部屋に着くと、福山萌は床に落ちたノートを指差し叫ぶ。
「そのノート、どこかに持って行って捨てて!」
まるで恐怖で気が触れたかのようだった。言われた通り、看護師がノートを部屋の外に持ち出すと、福山萌はふたたび頭から布団を被り動かなくなった。
それが映像に残された情報だった。スタッフは皆、理由がわからず唖然とする。
「あのノートにはいったい、なにが書かれていたんですか」
前田は率直に尋ねる。福山萌はたしかに、同級生から渡されたノートを見て怯えたのだ。看護師は回収したノートを前田に手渡す。
「これなんですけど。前田さんはこの意味、わかりますか」
受け取ったノートをめくると、英語の文法、化学式、数式などが書かれている。授業の内容を一冊に書き留めているようで、まさに彼女たちのために用意したものだった。
けれど最後のページで目に留まったのは、一面に大きく書かれたひとこと。それは授業とは無縁で異質な、意味不明な一文だった。
『おとぼけ様って、誰――?』
福山萌はたしかに、その問いかけにおびえていたのだ。
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