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前田は『怪異』の都市伝説については知らないふりをしつつ、さらに尋ねる。
「ところでその『おとぼけ様』は、どんなメッセージを送ってきたのかな」
「それが、誰かが怪我をするとか、事故に遭うとか、ちょっとした不幸な内容でした。その誰かって、必ずクラスの誰かなんです」
「それって、誰かのいたずらじゃないのかしら」
「でも、あの子たちは誰にどんなことが起きるのか、具体的に知らされていたようなんです。毎回、当たったって大騒ぎしていました」
「ほんとうに?」
「はい。ですからわたしたちは、彼女たちの言う『おとぼけ様』がいったいなんなのか気になって仕方なかったんです。でも、あんまり親密じゃなかったので聞けなくて。
けれどせっかく授業のノートを作るんだから、その『おとぼけ様』が誰なのかくらい教えてくれるかな、ってみんな期待していたんです。だからノートを分担して書いた誰かが、その質問をしたんだと思います」
「だけど彼女は『おとぼけ様って、誰?』っていう、ノートの最後に書かれた問いかけに怖がっていたの」
すると今村優奈は一瞬、はたと息をひそめた。そのことを想定していたのか、それとも予想外だったのか、前田にはわからなかった。
じつのところ、福山に渡したノート以外のものにも同じことが書かれていて、あとのふたりもその言葉に怯えていたのだ。
「さあ、どうして彼女たちが今、『おとぼけ様』を怖がっているのかはわからないです。ただクラスでは、彼女たちが『おとぼけ様』に取り憑かれたんだって噂していますよ」
今村優奈が言うには、あたかも『怪異』がこの事件を引き起こしたかのようだ。
看護師長である佐分利が、『霊を呼び寄せる儀式をおこなっていた』と言っていたことを思い出す。
たしかに、その儀式を執りおこなうまではおとぼけ様の話題で盛り上がっていたというのに、今はひどく恐れているのだ。
――まさかほんとうに霊を呼び出してしまったのだろうか?
前田は『怪異』の証言に背筋が冷たくなる。聞いたからには夢に出ることを覚悟しなくてはならない。
「今村さん、どうもありがとう。クラスメートのために頑張れるなんて、友達思いなんだね」
そう言って笑顔を見せると、今村優奈はなぜか急に表情を曇らせた。終始冷静だった彼女が見せた、わずかな感情の変化がそこにはあった。
「どうしたの?」
前田が不思議に思い尋ねると、今村優奈は少しだけ寂しそうに答えた。
「いえ、なんでもないです。ただ、わたしはそんなに友達思いじゃないですから」
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