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「ややっ、西成先生! 新たな情報が入りましたよ!」
大林警部が意気揚々と『診療部門特別相談室』に足を踏み入れる。アポなしだというのに遠慮するような様子はいっさいない。捜査の一環とはいえ、事前に約束を取り付けてもらいたいものだ。
前田は急いで書類を片付け、テーブルを拭き、コスモスを挿した花瓶をテーブルの中央に据えた。それから電気ケトルにミネラルウォーターを注いで電源を点ける。せめてお茶と菓子の準備をするくらいの時間はほしかった。
『怪異』の話は西成が大林に伝えたようで、だから大林も西成に対して知る情報を与えるつもりらしい。この不可解な傷害事件の原因が究明できれば、警察官としての彼の手柄になるのだろう。
どっかと遠慮なしにソファーに腰を下ろす。
「どんな情報でしょうか、大林警部」
「これは大きいですよ。まずは、彼女たちに送信された『おとぼけ様』からのメッセージの内容がわかりました」
「運営元に問い合わせたんですね」
「はい、彼女たちの親からメールアドレスを教えてもらいました。それでアカウントが特定できました。プロバイダーにはかなりプッシュしましたよ。なにせ『おとぼけ様』は殺人未遂事件の容疑者ですからね」
警察法に則って情報開示請求をすれば、プロバイダーは対応しないわけにはいかない。ここは警察の強みだな、と前田は感心した。
「その内容、確認させていただいてもよろしいでしょうか」
「いいですよ、コピーを用意してあります。でも機密事項ですので、西成先生以外には閲覧させないでください」
「秘書の前田さんもよろしいでしょうか」
すると手を止めてじろりと前田を見上げる。ひどく不服そうな表情だ。
「まぁ、いいでしょう。西成先生の監督下であれば、ですがね」
難色を示しながらも了承し、アタッシュケースの鍵を開けて中から書類を取り出す。プロバイダーから提供されたやり取りの情報は時系列に沿って並べられていた。メッセージが誰のアカウントに送信されたのか、明確に示されている。
メッセージの最初は半年ほど前。一通目は簡素な挨拶文だった。クラスの人数は二十九名だが、後に続く二十六通のメッセージにはクラスメートの名前とともに予言が記されている。
一通目。
『わたしの名は『おとぼけ』。わたしはそなたたちに未来を伝えるために現れた』
二通目。
『〇〇が包丁で失敗し左中指を受傷する』
十四通目。
『△△が自転車で転倒し頭部を打撲する』
二十六通目。
『□□が高所から落下し右脚を骨折する』
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