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この召喚の儀式に関わる文は、数分の違いで三人全員に送られていた。
それから先は、事件が起きた日の六時過ぎから連続して送られていた。ちょうど嵐となった夜で、まるで儀式がおこなわれるのを心待ちにしていたような迅速な送信だった。
『だれがおとぼけ様か、わかる?』
『ちょっとだけ我慢してね』
『わたしよりはましだと思うけど』
『こっちへおいでよ』
『もうおこっていないよ』
『こんどはなかよくしようよ』
なぜか親しげな文体となっており、まるで友人からのメッセージのようにも受け取れる。これらのメッセージは、三人ほぼ同時に、それも数秒のずれもなく送られていた。同じアカウントからの送信だった。
「同時に送信、ですか。物理的に可能なのでしょうか」
西成は首をひねったが、前田は思いついて口を開く。
「でも西成先生、複数の端末で同時にログインして送信すれば可能ですよね」
ふたりの視線が前田に向けられる。大林は先を越されたと思ったのか、不機嫌そうに眉を吊り上げた。
「その秘書の方の言う通りですね。じつはこれらのメッセージの送信は、複数のデバイスが用いられているようなんです」
「なるほど、複数ですか。ちなみに送信元は特定できましたか」
「いえ、それが……プロバイダーはメッセージの内容を確認し、『誹謗中傷や犯罪に関係するものではありませんので、個人情報をお伝えする必要はないと判断しました』と突っ返してきたんです」
「たしかにこの内容では個人情報開示を請求するには不十分かもしれません」
そこで大林は冷ややかな眼差しで西成を見つめ、身を乗り出して低い声を発する。
「じゃあ、今度は西成先生の番ですよ。これだけの情報を出したんですから、そろそろ被疑者の証言を聞かせてもらえませんか」
大林は入院している女子生徒の三人を『被害者』ではなく『被疑者』と呼んだ。
「彼女たちはなにかに怯えていますから、今は刺激するべきではありません。これは畠山先生の、専門医としての見解です」
西成は丁寧に答えたが、大林は舌を鳴らして腕を組む。
「我々も、そうそう暇ではないんですよ。未成年とはいえ、傷害事件の加害者が三人、この建物の中にいるんですからね。あなたたちがうまいこと喋らせられれば、事件はさらりと解決できるというのに」
西成と前田は大林の不遜な態度に顔を見合わせた。強引にでも口を割らせようとする、短絡的な思考回路の持ち主なのだろうと思い、前田はほんの一瞬、鋭い視線で大林を刺した。
「――わかりました。それでは、畠山先生にも話を聞いてみます」
「頼りにしていますからね、弁護士先生」
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