84人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
大林は嫌味な言い方をしてから立ち上がり、アタッシュケースを手にして踵を返す。振り返ることもなく部屋を立ち去っていった。
足音が遠ざかってから、前田は西成にぽろりとこぼす。
「……西成先生、わたしはあの人が功を焦っているように見えるんです」
「やっぱりそうですか。前田さんは人を見る目がありますね」
「いえ、そんな。ただ、入院している子たちを大林警部に会わせてはいけない気がしました」
「私も同感です。退院させたら強引に聞き込みをしそうですからね。『おとぼけ様』というキーワードで彼女たちの恐怖心を引きずり出すことになるでしょう」
「なんとかして真相を突き止めたいのですが……」
「だけどこの事件は謎が多すぎて、どこに手がかりがあるのか見当がつきません」
百戦錬磨の西成でさえ、五里霧中で困惑している様子だった。
――原因がほんとうに『怪異』だから、西成先生ですら解決できないのかも。
前田はそんなふうに考えるしかなかった。
けれど自分なりに打開策を考えようと思い、秘書のデスクに一度戻って、今までの情報をパソコンに時系列でまとめてみることにした。
昨年、『桜田葵』というクラスメートが自殺した。
その後、『おとぼけ様』からの予言のメッセージが届くようになる。
受け取ったのは、クラスで目立ちたがり屋の三田村薫、福山萌、それに横山里奈。それから『おとぼけ様』の予言通りにクラスメートに不幸が起きる。それも軽いものから重いものへと。
予言は三人を残して終わり、『おとぼけ様』は召喚の儀式の指示を出す。複数の端末からの同時送信。
そして事件は起きた。教室は血の海となったのだ。彼女たちは救急車で運ばれてこの病院に入院した。
翌日、クラスメートの今村優奈が見舞いに来院し、渡した授業ノートを見て恐怖に陥る。そこには『おとぼけ様』と書かれていた。
まとめたところで前田は読み返し、ごくりと唾を飲み込む。おそるおそる西成に尋ねた。
「こう読んでみますと、まるで自殺したクラスメートが全員に呪いをかけているようです。ネットで噂される都市伝説とまるで同じですから」
「むぅ、たしかにそう思うのも納得できますが、なにかが引っかかるんですよね……」
西成は現実主義なようで、『怪異』とは考えていないようだ。凛々しい表情で窓の外の夕暮れを眺めている。
「ところで西成先生、その自殺した女子生徒はどんな性格だったかわかりますか」
「朗らかで友人が多かったとのことでした。だから両親も自殺だなんて信じられなかったようです」
最初のコメントを投稿しよう!