【第三話 怪異の復讐劇】

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★ 「あっ、こんにちは、綺麗なお姉さん!」 今村ははにかんだ上品な笑顔で挨拶をする。賢くて真面目な、まさに見本のような生徒だ。 友人たちからの人望も厚いのだろう。そうでなければ、ただの女子生徒が『怪異』を成立させられるはずがない。 「今村さん、お話ししたいことがあるの」 今村は前田の胸に潜む疑念を嗅ぎとったのか、すっと目を細め、わずかにためらいを見せた。 「――人目のないところへ案内してもらえますか」 そう切り出した今村には、覚悟めいた雰囲気が感じられる。 ふたりは言葉を交わすことなく、屋上へと向かった。鋼鉄製の扉を開くと、無機質なコンクリートの床が広がる。この場所なら誰にも邪魔されることはない。 今村はフェンス越しに遠くの空を眺める。ほっそりとした背中は物悲しさを漂わせていた。前田は隣に並んで語りかける。 「今村さんは、桜田葵さんと仲が良かったのよね」 前田の問いかけに今村の肩がぴくりと跳ねた。刹那の間があってから返事がくる。 「ええ。家が近くて、幼馴染でした」 「そっか。大切な人だったんだね。きっと悲しかったわよね」 不自然な無言の時間があった。緊張感をみなぎらせ、まるで身構えるかのように。 「――なんでそんなことを尋ねるんですか」 「そのことなんだけどね、桜田さんは入院している三田村さん、福山さん、それに横山さんからひどいことをされていたのよね。そして彼女たちは『おとぼけ様』というキーワードに恐れをなした。あのソーシャルネットワークでの『怪異』のことは知っているわ」 すると今村は振り返ってふっと口角を上げる。 「前田さんは、オカルトがお好きなんですね。葵がその『おとぼけ様』になって彼女たちに復讐をしたって思っていらっしゃるんですね」 「たしかにそう思えるわよね。でも――」 そして前田はすぅ、と息を吸う。荒ぶる胸をなだめて見出した真実を伝える。 「あなたは彼女たちがそう思い込むように、クラスのみんなと結託していたのね」 今村の瞳がぱっと大きく見開いた。彼女は他人を騙せるくらい賢いけれど、自分を騙せるほどふてぶてしくなかったなと思い、同時に『怪異』のシナリオに確信を持った。 「それではあなたの描いたシナリオについて、わたしたちの推理を話させてもらいたいけれど、いいかな?」 けれど今村はうつむき首を大きく横に振る。 「完璧だと思ったのに。でも、気づいたお姉さんには敬意を払わなくちゃ。引導を渡される相手は自分で選びたいもの」 今村はもう逃げられないと覚悟を決めたようで、この『怪異』の正体について語り始めた。 それはひとりの女子生徒が考えたとは思えないほど、緻密で洗練された計画だった。
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