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葵とわたしは、希望に満ちた高校生活を夢見ていました。けれどその夢は、あの三人に打ち砕かれました。
ほとんどの生徒は穏和で優しい性格だったのに、あの三人だけは違っていました。
彼女たちは支配欲が強く、クラスメートを従えて恍惚を感じる人物でした。カースト上位に君臨したがる、厄介な顕示欲の持ち主だったのです。
入学するやいなや、彼女たちはクラスメートをひとりひとり呼び出し、ばれない程度にいびり、時には痛めつけ、威圧し服従させていきました。
不運にもそんな共通項を持つ三人が同じクラスになってしまったから、彼女たちは徒党を組んでクラスの支配者になりました。
男子の目があれば違ったのかもしれないですけれど、女子高ではそういったエゴの抑止力となる存在は皆無です。須崎先生だって、生徒間の関係に立ち入るのを恐れていましたから。
彼女たちは、最強でした。
けれど、反旗を翻した勇敢な子がひとりだけいました。それが葵です。でも、葵の凛とした態度は、彼女たちの導火線に火をつけてしまいます。
「てめえ、何様のつもりで言ってんだよ!」
「優等生ぶりやがって、ほんと気に入らねぇ!」
「あたしらに歯向かって生きていけると思ってんのかよ!」
彼女たちの嫌がらせは次第にエスカレートしてゆきます。休み時間には無理やりトイレに連行し、床に跪かせ、時には便器の中に頭を突っ込ませました。
そして葵のスマホには、悪意に満ちたメッセージが送り続けられていました。彼女たちは昼夜を問わず、身勝手な暴言を叩きつけてくるのです。
気丈だった葵は次第に壊れていきました。そしてわたしたちはその事実を知りながら、自分が標的にされるのを恐れ、見て見ぬふりをしてきたのです。
そのせいで彼女は亡くなりました。苦しんで、苦しんで、みずから命を絶ったのです。
わたしたちがどんなに後悔をしても、失われた命は取り戻せないのです。――もしも皆で声をあげていたら。手を差し伸べていたら、結果は違っていたはずなのに。
だからわたしたちクラスメートはみんな、罪人に違いないのです。わたしたちが看過したことで、葵を死に追いやってしまったのですから。
葵のお葬式の日、お焼香を済ませたわたしたちは集合しました。当然ながら、あの三人だけは来ていませんでした。
誰もが無言で沈み込んでいましたが、ひとりが泣き出すと涙は荒波になって伝播しました。
「葵……ごめん……ごめん――ッ!」
皆が声を上げて泣き崩れました。地面にひれ伏し、頭をこすりつけて謝る子もいました。みんな、友達がいなくなったことだけでなく、看過した卑怯な自分自身が許せなかったのです。
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