【第三話 怪異の復讐劇】

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わたしは気づいていました。毎回興奮する彼女たちには、ほんとうは違う感情が沸き起こっていたのです。そう、焦燥と恐怖です。 『おとぼけ様』の予言は百発百中で、クラスメートにしか起きていません。だから、不幸は『おとぼけ様』がみずから引き起こしていることじゃないかと思うのは当然のことです。しかも次第にエスカレートしています。 そうなると、残された三人は自分たちが最も恐ろしい不幸に見舞われるのではないかと考えます。なぜなら彼女たちには心当たりがあるからです。 そう、彼女たちは『おとぼけ様』の正体は『葵』だと信じ込んでいます。 届くメッセージをから目をそらすことなんてできない。そして葵の亡霊におびえ恐怖を募らせてゆく。それがわたしの考えたストーリーでした。不安を誤魔化すようにはしゃぐ彼女たちはひどく痛々しく見えました。 恐怖が十分に蓄積したら、いよいよ『復讐劇』の幕開けです。 『そなたたちが望むのであれば、わたしはそなたたちの目の前に現れよう』 彼女たちは『おとぼけ様』の召喚に快く応じました。それは彼女たちが『おとぼけ様』の恐怖から逃れるための選択だったに違いありません。なぜならわたしは、『おとぼけ様』を消し去るための方法を彼女たちに伝えていたのですから。 『わたしはりんごを食したい。りんごを三つ用意し、三人は六芒星の先端に立ち、誰もいない先端にはりんごを置くように。互い違いになるように配置しなければならない』 『りんごを剥くためのナイフをみっつ、それも同じものを用意するように。ナイフはりんごに垂直に刺して置いておくこと。ただし、わたしは金属に弱い。』 わたしの指示に従って、教室には蝋燭が灯り、床に六芒星が描かれました。幻想的な雰囲気はさらに彼女たちの恐怖心を増長させます。 そして儀式が始まりました。わたしたちは教室の外からひっそりと、彼女たちの動向を見張ります。彼女たちは声を合わせて『召喚の呪文』を詠唱しました。 廊下の窓に稲妻が走ります。天が、吠えるようにうなりました。 『おとぼけ様』のアカウントにわたしと、あとふたりがログインし、打ち合わせ通り同時に三人にあててメッセージを送信します。 『だれがおとぼけ様か、わかる?』 ひっ、と小さな悲鳴がみっつ、同時に教室の中から聞こえました。彼女たちは皆、『おとぼけ様』が誰かに憑依したのだと思い込みました。 なぜって、そう思うように仕向けましたから。 『呪文はどこかに書き写す、あるいは誰かに送信した場合は効力が失われる』という一文は、彼女たち全員にスマホを持たせるための作戦でした。そして教室は暗く、お互いの行動はよくわかりません。
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