【第三話 怪異の復讐劇】

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ですから彼女たちは相手に気づかれずにメッセージを送信することができます。三人とも、おとぼけ様が誰かに憑依し、自分にメッセージを送ったと思ったことでしょう。 そう、彼女たちは皆、いっせいに『おとぼけ様』の容疑者となったのです。 「あっ……あんたが『おとぼけ様』だろ!」 「嘘つけッ! あんたこそ『おとぼけ様』なんだろ!」 ゴトン、とリンゴが床に落ちる音がしました。ナイフはリンゴに刺さっていますから、それはナイフを手にしたという証拠でした。もう二回、その音が鳴りました。恐怖に支配された彼女たちは、無我夢中で『おとぼけ様』を消すための武器を手にしたのです。 『ちょっとだけ我慢してね』 『私よりはましだと思うけど』 さらにメッセージを送って数秒後、恐怖に満ちた悲鳴が響きます。 「お前、ほんとは葵なんだろ! 死人はおとなしくしてろッ!」 「ひっ……違ッ! やっ……やめてっ!」 もう、わたしたちの脳裏から『容赦』という言葉はなくなっていました。 『こっちへおいでよ』 『もうおこっていないよ』 『こんどはなかよくしようよ』 「こっ……殺してやるッ!」 彼女たちの誰か、恐怖で気が動転したようです。すぐさま教室の中は騒然となりました。 「いっ、痛いッ! やり返しやがったな、このおとぼけがっ! 殺してやる! テメーに連れていかれてたまるか!」 「あたしはおとぼけなんかじゃないッ! おとぼけはあんただろ! 殺られる前に殺してやるッ!」 「ぎゃっ!」 「ぎゃーっ!」 「ひっ、いてェ――!」 わたしはそろそろだと思い、手持ちの鍵で扉を開けました。 すると三人は見るも無惨な姿になっていました。ナイフを握る手はひどく震え、顔や手足からは血がしたたり落ち、制服は赤黒く染められています。わたしは即座に叫びました。 「助けにきたよ!『おとぼけ様』の追い払い方がわかったの!」 三人とも、えっ、と驚嘆してわたしに視線を向けました。 「ナイフを手離して土下座をして。それから『おとぼけ様、どうかここから立ち去ってください』とお願いするの!」 聞いた三人は慌ててナイフを放り投げ、床に頭をこすりつけ必死に哀願しました。 「「「おとぼけ様、どうかここから立ち去ってくださいッ!」」」 わたしはひれ伏した三人を横目に、血まみれのナイフを拾い集めました。彼女たちは助かったと思ったようで、床にはいつくばったままわんわんと泣き始めました。 そうしてわたしたちと葵の『復讐劇』は幕を閉じたのです。
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