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独白を終えた今村は大きくため息をつく。
かたや前田はひとりの女子生徒が描いた筋書きの見事さに言葉を失う。
聞いてすべてが理解できた。西成が推理したように、この『怪異』の正体は、三人の不遜さがもたらした疑心暗鬼だった。架空の亡霊の恐怖から逃れるため、友人を手にかけるにいたったのだ。
そしてそのすべてが、たったひとりの女子生徒――今村によって計画された心理誘導だった。
頭の整理がついた前田は今村に尋ねる。
「ちょっと待って。でもあなたは結局、三人を止めたのよね?」
「ええ。葵と同じ運命でも良かったですけれど、身体に一生残る傷を負い、忘れることのない恐怖に怯え苦しみ続けるのがお似合いだと思ったからです」
「でも彼女たちは生き残ったわ。そうなるとあなたが疑われるんじゃないかしら」
今村は少しだけ思考を巡らせてから答える。
「ああ、それは大丈夫なはずです。わたしはこの真相を闇に葬りましたから」
「闇に、葬る?」
「わたしは助けに入って騒動を収めた直後、放心状態の彼女たちに最後の嘘をたむけたんです」
――『おとぼけ様』ってさ、正体は自分の醜い部分が化けた妖魔なんだって。記憶から消さないかぎり、ふたたび現れるんだよ!
「って言いました。無防備な心の彼女たちに、疑念を抱く余裕なんてないと思ったので」
なるほど、『おとぼけ様』に二度と触れたくないと思わせれば、今村さんを追求することもなくなるはず。それにメッセージを見返しても、殺し合う理由にはなりそうもないものばかりだ。
「でも、彼女たちが思惑通りに口を閉ざすかどうかなんて、わからないじゃない?」
今村はすっと視線を横にそらした。
「ですから、ノートの最後で『おとぼけ様って、誰――?』って尋ねたんです。それは、最後の嘘が有効に働くかどうか確認するための質問でした」
「まさか! そこまで計算していたっていうの!?」
「はい、そうです」
彼女たちが『おとぼけ様』に関する記憶を振り払おうとしているのなら、『おとぼけ様』という言葉を恐れるに違いない。恐怖の焼きつき具合を言葉ひとつで確かめることができるのだ。
前田は今村優奈という女子高生の計算高さに戦慄が走った。
かたや今村は覚悟を決めたのか、立ちすくんだまま静かに空を眺めていた。ぽつりと小声で前田に尋ねる。
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