【第三話 怪異の復讐劇】

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「ふふ、弁護士って口だけで臆病な生き物なんですね。もしわたしがこれから彼女たちを殺したら、弁護士さんも『未必の故意』に問われませんか」 「そうかもしれません。でも、私はただ――あなたが心配なだけなのです」 今村は目を二倍に見開いた。 「この件で一番傷ついているのは、今村さん自身です。私は今村さんが一生、自分のせいで友達を失ったという後悔を背負って生きていくのが、ひどく不憫なことに思えたのです。 だけど桜田葵さんが今村さんに助けを求めなかったのは、あなたを守りたかったからに違いないと、私は思っているのです」 今村は左腕のミサンガに手を重ねた。西成の目に映る今村の表情は、持ち前の冷静さを失い崩れていく。 「桜田さんは自分の未来をあなたに託したのではないでしょうか。ですから、あなたはその未来を大切に育まなくてはいけません」 今村がすがるように前田に視線を移すと、前田は指を自分の唇の前に当てて内緒の仕草を見せた。この事実を秘密にする、という意味でそうしたのだ。 ふたりの意図に気づいた今村はうつむいてぽつりとこぼす。 「わたし、弁護士っていうのはの職業かと思っていました。死んだ人の命を計算したり、黒を白に塗り替えてお金を稼いだり。でも、ほんとうはそうでもないんですね……」 涙ぐんで声を震わせる今村は、今まで耐えてきた呵責の念から解き放たれているように見えた。 「あの……質問があります。弁護士になるってどれくらい大変ですか?」 西成も前田も、その質問にはぎょっとする。けれど前田はすかさず言い切った。 「あなたなら、きっとなれる」 「でも……こんな犯罪者に資格はあるんですか」 今度は西成が目を細めて口元をやわらかくしならせる。 「私の目には、未来ある若者の姿しか見えませんけどね」 そんなふたりの哀れみ深い言葉に、今村は無言で頬を濡らした。最後に前田が今村の背中を押す。 「さあ、学校に帰りなよ。遅くなるとクラスメートが心配しちゃうよ」 「ありがとう……ございますっ!」 今村は深々と頭を垂れ、きびすを返して屋上を去ってゆく。 その背中を見送りながら前田は思う。彼女のような優しくて賢い子は、これからたくさんの人に手を差し伸べていくのだろうと。 見上げるとトワイライトの空には、笑顔のような下弦の月が浮かんでいた。
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