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当たり前なのに、かげくんなんて愛称をつけたから愛着がわいて。また喪失感に浸っている。
「DVDでも見るか」
翔くんとの思い出の品を彼の実家に少しずつ送っている。ただ、ホラーのDVDを残しているのは、翔くんがいた証を残したかっただけ。
私がよく見ている蘇りものの映画みたいにやっぱり生前の姿で現れてほしかった。
「別れがツラくなるって言ったのに、わがままだね」
真っ暗なテレビをつけて、映し出したのは苦手なホラー。
「これも返さなきゃだから」
ビリビリと買ってきたおにぎりの包装を破りかぶりつく。
パリッとした海苔と鮭が空腹の私を救ってくれる。テレビに映るシーンがこわい効果音と共に幽霊が出てくるシーンに差し掛かったとき。
ザザ、ザ―ーー
映像が途切れて勝手に一時停止のまま動かなくなってしまう。
「な、なんなの」
おにぎりを食べ終え、両手で顔を隠して指の隙間から見ていたのに。
翔くんとの思い出にサヨナラしなきゃいけないのに。
ブツ
テレビまで勝手に消える。ここまで不思議体験して平常心なんてもてないよ。
「なによ・・・・」
怖がっている姿をみて満足する彼だったけどここまでしない。
太陽の光が差し込み、私の影が現れる。影が、いや頭が二つある。
「もう。嫌だって!!」
目を瞑りかけて思い出す。
『夏乃が怖がらないように、今みたいにバッグハグするわ』
『翔くんだってわかんないじゃん』
『わかるようにするからさ』
頭が二つなんて、ホラー好きな翔くんらしい合図だよ。
「わかりにくいって。翔くん」
振り返って言うけれど、壁際だけで濃い影が重なって見える。
私は光が差す方向に顔を向き直しうつ向く。
「え?」
私だけの影になっていて、最後に勝手にDVDが取り出し口からのびてきた。
前へ進めよ
勝手に出てきたDVDが、翔くんの代わりに言ってくれている気がした。
おわり
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