はしゃいで、疲れて。〜結衣〜

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はしゃいで、疲れて。〜結衣〜

 七里ヶ浜の海は、一面の綺麗な蒼色。キラキラと陽の光が反射されて、わたしたちを呼んでる。  飛ばしてくる車によく気をつけながら道路を渡る。お父さんの言ったとおりで、海の家のある海水浴場ではないんだね。ただ、人はたくさんいた。外国人の観光客の姿も多い。  はぐれないように、ということなのか。忍田先輩が、ギュッとわたしの手を繋いでくれた。わたしの心がもう、痛いくらいに跳ねてる。ジリジリと陽射しが照りつけて、泣きたいくらい幸せ。  砂浜の一角のギリギリ空いたスペースに、荷物とビニールシートを置いた。 「じゃあ、泳いで来い」  先輩はそう言って、自分はこのビニールシートで待つつもりのようだ。 「えー。せっかく海に来たのに、結衣、ひとりですかー」  唇をとがらせて、先輩に異議申し立てをした。 「だって、荷物番がいないだろ。結衣のスマホだってあるんだし」  確かにそれはそうだ。忍田先輩は自分のスマホをホテルに置いてきてた。賢い判断だったな、と思う。  たとえ一人きりでもいい。海に触れて、思い切り暴れてやる! 「うわぁー。冷たい。水、冷たいですよ先輩!」  弾んだ声で実況報告。先輩が優しい目をしてこちらを見てた。そしたら、隣のビニールシートにいた三十代くらいのおじさんと何か話して、頭を下げてる。先輩もこちらに来るではないか。 「なんか、優しい人もいたもんで。荷物見ててくれるってさ」  忍田先輩はぽりぽり頭を掻いて恥ずかしそうにしてる。  わたしたちは海の、腰が浸かる辺りまで行く。先輩が水をかけてきたので、わたしは「ひゃあー」と声をあげて、先輩に三倍のお返しをする。  先輩の笑顔が眩しくて、尊い。  たった三十分か四十分か。海で遊んで、波と先輩と戯れた。  それでも八月前半の陽射しはきつくて、わたしは若干フラフラしてた。先輩は気づいたのだろう。 「戻ろうか。昼飯、コンビニで買ってさっきのホテルで食べてもいいし。喫茶店もホテルの一階にあったから、そこでもいいし」  と紳士的なところを見せる。  もっと海にいたかったけれど、仕方ない。お言葉に甘えて戻ることにした。
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