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「それって、楽しいんですか?」
「へ? 仕事に楽しいも何もないよ。ただの使命だからさ」
へらっと笑ってみせた笑顔は、ひどく作り物めいている。
ただの使命ーー。
そこに彼の感情は一切交わらない。そんなのってない。
「アハ〜、もしかして、あそこって、あいちゃんのお家?」
「え? あっ」
悲しいかな、まだ神谷玲桜の効果が僕にも備わっているらしい。異形の姿がしっかりと見えた。空に向かって黒い物体が渦を巻いている。ひとつひとつは小さいが、集合体になると、むごいものだ。ちょうど、僕の住んでいる家を取り囲んでいる。
「僕、今まであんなところに住んでたんですね」
「普通は少しこびりついているくらいなんだけど、あれはちょっと度を超えているよね。ここでちょっと待ってて。すーぐ祓って来るから」
神谷くんは懐から人型の白い紙を取り出した。その紙に軽く口づけをする。
「おいで、桜久(さく)」
穏やかな命令に従い、もくもくと煙があがると、そこには気高い獣が出現していた。
ゾウよりも大きい身体を震わせ、咆哮する。ふさふさと真っ白い毛並みに稲妻のように入る黒い毛。神谷くんの髪に似た黄金の瞳に、鋭い牙。まさしく、そこには書物でしか見たことがない、白虎の姿があった。
神谷くんは簡単に白虎の背に跨ると、合図もなしに獣が空を駆け出した。あまりにも非現実的な光景に、さすがの僕も口をあんぐりと開けてしまう。
彼は建物の頭上から悪霊を見下ろし、ため息を吐いた。冷ややかな視線にハッと背筋が凍る。
「ここの管轄の祓い屋は何をやってるんだ。職務怠慢は本部に報告しないとな。……うん、でも、まあ、この規模の悪霊は、ランクの高い祓い屋でないと無理か。行くぞ、桜久。久しぶりに大暴れしようじゃないかっ!」
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