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もういつものグレンだった。リゼルの体からどっと力が抜け、ロズに支えられるようにしてよろよろと身を起こす。こちらを見下ろすグレンの額には汗が浮かんで、金色の前髪が張りついていた。それでリゼルも合点がいく。――この方も、焦っていたのだ。
「旦那様……ありがとうございます……」
リゼルは地面にしゃがみこんだまま、頭をもたげて礼を言う。今更冷たい震えが這い上ってきて、立ち上がることさえできなかった。顔から血の気が引いているのが自分でもわかる。
「怪我はないか?」
グレンがしなやかに膝をつく。そうして腕を伸べたかと思うと、ぎゅっとリゼルを抱きしめてきた。
「心配した。リゼルに何かあったら、俺は自分を許せない。頼むからいなくなるな。――ずっと俺のそばにいてくれ」
「……っ!?」
こんなに間近で触れ合うのは初めてで、リゼルはヒュッと息を止めた。自分の体を包む力強い腕が、厚い胸板が、その温もりが、信じられないほどはっきりと感じられる。途方もない安心感に、体中を覆っていた震えが潮のように引いていった。
「わ、私は、大丈夫です……」
「本当か? 無理をしていないだろうな」
耳元には熱のこもった吐息が触れる。ぞくぞくと首筋がくすぐったくなって身を捩れば、苦しいほどに抱きこまれた。
「逃げるな」
「あ、あのっ、でも、ロズ様の方がお怪我を……」
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