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4 様子のおかしい旦那様
*
寝室に呼び出された主治医はグレンに様々な検査を行い、鷹揚に説いた。
「どうやら頭を強く打った影響で、記憶の一部が抜け落ちたようですな。しかし、ご自分のことは覚えておられるし、読み書きなどの一般常識も残っているようです。ゆっくり休めば、失われた記憶もそのうちに戻るでしょう。頭部の怪我もさして重いものでもありません。骨も折れていませんし、打撲も軽い。そう不安にならずとも大丈夫ですよ」
「まあ、そうなのですね。大事に至らなくて本当によかった……」
リゼルはほっと胸を撫で下ろす。ひとまず、グレンの無事が確認できたのは嬉しい。
しかし。
「その、では、旦那様の様子が少し……変わったのは、記憶喪失の影響でしょうか……?」
恐る恐る聞きながら、リゼルは自分の左手に目を落とす。
先ほどから、逃がすまいとでもいうように、ガッチリとグレンに掴まれている左手に。
幼い頃から彼を診ているという主治医が、興味深げに顎に手をやる。ふむ、と息を吐くと、白い口髭がふわふわそよいだ。
「そうでしょうな。検査したところ、坊ちゃんが忘れているのは奥様のことだけのようです。それで奥様に対する態度も変化したのでしょうな」
「坊ちゃんはやめてくれ。妻の前で格好がつかないだろう」
ベッドに半身を起こしたグレンが不機嫌そうに口を挟む。主治医が小さな目を瞬かせ、にっこり笑った。
「おやおや、これは失礼いたしました。コーネスト騎士団長殿」
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