4 様子のおかしい旦那様

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 軽やかなやり取りに、青ざめるのはリゼルだ。初めて触れるグレンの手は、リゼルの手をすっぽり覆ってしまうほど大きい。騎士として剣を振るっているからだろうか。手のひらの皮は分厚く、指先が硬い。知らない男の感触だった。 「すみません。記憶が戻ったら、旦那様の態度も元に戻るのでしょうか」  部屋の隅に控えていたネイが片手を上げる。口調こそ淡々としているものの、その目はグレンを苦々しげに睨みつけていた。 「それはわかりませんな。元に戻る可能性はあります。しかし記憶喪失の間のことも覚えているものですから、あるいはそのままかもしれません」 「なるほど」  ネイが物言いたげに目配せしてくる。しかしその意味を把握する前に、ぐいと手を引かれてリゼルは横を向いた。  そちらでは、やけに真剣な顔をしたグレンがリゼルを注視していた。彼とここまで至近距離で顔を合わせるのは初夜以来ではないだろうか。 「それより、俺はまだ君の名前を聞いていない。どうか名を聞かせてくれないだろうか」  騎士叙勲(アコレード)でもするような重々しい声音にリゼルはたじろぐ。 「な、名前ですか……?」 「ああ、最も重要なことだ」 (し、真剣すぎて怖い!)
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