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美形は真顔になるとそれだけで凄みが出るものらしい。炯々と底光る翡翠の瞳も、険しく引き結ばれた唇も、間違いなく美しいのにどこか威圧感があって、リゼルは震え上がった。そういえば、と思い出す。巷では、この男を指して氷壁の騎士団長とか呼んでいるらしい。そう呼んで畏れたくなるのはまざまざと理解できる。
たぶんグレンにはリゼルが妻だということしか説明していないから、ものすごく怪しまれているのだろう。こんな凡庸な女が自分の妻?何かの間違いでは?と文句をつけたくなるのはわかる。
強い眼差しに気圧されたまま、リゼルはごくりと唾を飲みこんだ。
「……リゼル・コーネストと申します」
「リゼル。良い名だな」
「そ、それほどでも……」
「可憐な君にぴったりだ」
「は、い……?」
ぴたり、とリゼルの動きが止まる。
可憐とはどういう意味の単語だっただろう。リゼルが知らないだけで、今からお前を殺すとかこの屋敷から出ていけとか、そういう意味があっただろうか。
いや、ない。
自分の耳が信じられず、助けを求めてネイと主治医の方を見る。主治医はニコニコとしているし、ネイはしきりに首を横に振っている。どうやら今のは幻聴ではなかったらしい。そして誰も救いの手は差し伸べてくれないようだ。
もう一度グレンに顔を戻す。目が合うと、彼は今まで見たことないほど柔らかに微笑んだ。
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