4 様子のおかしい旦那様

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「どうかしたか? 我が妻」 「ウッ」  初めて目の当たりにした微笑があまりに麗しく、刺突を受けたかのような呻き声が漏れた。グレンが慌てたようにリゼルの顔を覗きこむ。 「大丈夫か。リゼルはずっと看病してくれていたんだろう。疲れが出たか?」 「そ、そうではなく……」  疲れているのは旦那様では!?と叫びたいのを堪え、リゼルはよろよろと首をもたげた。おかしい。変だ。この人はこんな風に自分を心配したりしないはず。  震える片手でぐしゃりと前髪を握りしめ、リゼルは呆然と呟いた。 「……あの、本当に記憶喪失が原因なのですよね? 何か精神に異常を来しているなどではありませんよね?」  困惑しきったリゼルが問えば、横合いから主治医が補足を入れる。 「医者としては、記憶喪失以外に原因は見当たりませんな」 「そんな……」 「ついでに申せば、特に錯乱している様子も見られません。これはこれで、グレン様の一面でしょうなあ」 「一面……」  リゼルは言葉をなくし、パタリと手を膝に下ろした。人間には色々な顔があることは知っている。リゼルだってそうだ。でも、まさか、そんなことがあるのか? 多面的すぎる。コインのように裏表くらいにしておいてほしい。  グレンが腕を伸ばし、混乱の極致にいるリゼルの前髪をそっと整えた。反射的にびくりと身を引くと「驚かせてすまない」と礼儀正しく手が退いていく。
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