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「許せ、リゼルの表情をよく見たかったんだ。ひどく綺麗な目をしているから」
柔和に告げられた声に、リゼルは息を呑む。仰いだ先、彼はリゼルの両目の奥底を覗くように、真摯な眼差しをこちらに向けていた。
「君の目は、世界に開かれた窓のようだ。おそらく、俺とはまるで違う物を見ているのだろう。羨ましいことだ」
「なっ……」
リゼルはどきりとして、とっさに目元を手で隠す。それは実家で染みついた癖だった。
(……私の目は、鳥の目。これはあまり良くないもの。マギナ家では歓迎されなかった)
暗くなった視界の中、脳裏に家族の声が蘇る。父も母も妹も、リゼルの目つきを疎ましがった。気味が悪い、こちらを馬鹿にしている嫌な目だと、吐き捨てて憚らなかった。それで彼女はずっと前髪を長く伸ばし、目を半ば覆っていたのだ。
それを、グレンは綺麗だという。
人と違う物を見る目を、厭わない。
指の隙間から窺えば、彼は不思議そうにこちらを見つめている。リゼルはぐっと唇を噛みしめた。
(旦那様の様子がおかしいのは、私のことを忘れているからだもの。結婚の経緯を説明すれば、きっと元に戻るわ)
ほんの一瞬だけ、まるで妻として大切にされているかのように錯覚してしまったけれど。
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