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それはやっぱり誤解にすぎなくて。リゼルはきちんとグレンに説明しなければならない。真実を隠して、甘い夢に浸るなんて罪は許されない。
それが誠意というものだ。
目を隠していた手をそろそろと外す。依然としてグレンはリゼルを見ていて、背中にはネイと主治医の気遣わしげな目線を感じた。
深く息を吸いこむ。馴染みのない寝室の香りに、傷薬の匂いが混ざっていた。
「あの、旦那様。私たちはさほど愛し合う夫婦というわけではなかったのです」
それからリゼルは言葉を尽くし、結婚の大略を話して聞かせた。祖父の約束で始まったこと、結婚して一年、二人の間には会話すらほとんどないこと。
話はすぐに終わった。窓の外で雲が流れ、寝室に差す陽が翳る。グレンの翡翠の瞳が、鈍い緑青色に変じて映った。
「――そうだったのか。俺は、君にそのようなことを」
「はい。ですから、別に無理して親切にしていただく必要は……」
「申し訳なかった」
「はい?」
突然深々とグレンが頭を下げたので、リゼルは呆気に取られる。無防備に晒されたつむじを声もなく見つめていると、グレンが苦しげに言葉を接いだ。
「かつての俺の態度は、妻に取っていいものではなかった。許してくれとは言わないが、せめて謝らせてくれ」
「えっ……と……?」
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