204人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
5 心労がすごい
*
数日経って頭の怪我が治ると、すぐにグレンは出仕するようになった。混乱を避けるために記憶喪失のことは内密にするらしい。忘れたのはリゼルにまつわる記憶だけだから、仕事には支障がない。
彼が長を務める王立騎士団の任務は、主に王都の治安維持と魔獣の退治だ。
魔獣とはこの国に昔から現れる人間に害なす獣で、おぞましい姿を持ち、普通の動物とは異なり体躯も大きく膂力も強い。そのため武技に優れた精鋭達が集まって、騎士団を編成し国民を守っている。
グレンが怪我を負ったのもこの魔獣と戦っていた時というから、戦場の激しさは察して余りある。リゼルとしては今度は無事に帰ってきますように、と祈るしかないのだが……。
「ただいま戻った、リゼル」
「お、お帰りなさいませ」
その夜、屋敷の玄関ホールでぱたぱたと出迎えたリゼルを認め、騎士服姿のグレンは眦を和らげた。肩にかけたマントを使用人に渡し、リゼルに向かって右手を差し出す。
そこには、可憐なローズマリーとゼラニウムの花束が握られていた。
「あ、あの……? これは……?」
フリルのようなゼラニウムの赤い花を、ローズマリーの葉が控えめに囲んでいる。ローズマリーの清々しい香りが漂い、鼻先をくすぐった。
可愛らしい花束を前にきょとんとするリゼルに、グレンは照れくさそうに言う。
最初のコメントを投稿しよう!