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「今日の見回り先で見つけたんだ。リゼルに似合うと思って」
「は、花……を……私に……?」
眼前に差し出される花束は、ささやかだけれど凛とした美しさに満ちている。リゼルのどこに似合う要素があるのか全く理解できない。
受け取ることもできずにその場に立ち尽くしていると、グレンの眉尻が悲しげに下がった。
「あまり花は好みではなかったか」
「い、いえ、そんなことは。嬉しい、です。……ローズマリーもゼラニウムも魔法薬に使いますから親しみ深いですし……」
「では受け取ってくれ」
「は、はい」
半ば押しつけられるようにして手に取れば、ローズマリーの香りが一層強く立ち上る。つられるように花に顔を近寄せると、知らず微笑が浮かんだ。リゼルは花が好きだった。窓すらない雨漏りばかりの実家の離れで、村人のためにこっそり魔法薬を作りながら、時々ネイが持ってきてくれる花を飾って心を慰めていたものだ。
「ありがとう、ございます。旦那様」
微笑みの余韻を残したまま礼を言うと、ふっとグレンが片笑んだ。
「やはり似合う。今日一日、リゼルがこれを喜んでくれるかが最も気がかりだった」
「お、大げさでは」
「大げさなものか。俺はリゼルの笑顔を見たいのに、君を喜ばせるのは何より難しい」
「…………そ、そうですか」
リゼルは絶句した後、花束に顔を隠すようにしてぽしょぽしょ呟いた。頬が熱い。
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