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(本当に、旦那様はどうしてしまわれたのかしら)
記憶喪失前の彼との寒暖差が激しすぎる。あまりの違いに風邪を引きそうだ。
当のグレンは、顔を赤くするリゼルを微笑ましそうに眺めている。それからそっと肩を抱いて、リゼルを食堂の方へ誘った。
「では、一緒に夕食を摂るとしよう」
グレンが記憶を失って以来、一事が万事こうだった。
今まで出迎えを望まれたことも、食事に誘われたこともない。しかし今のグレンは何かとリゼルをそばに寄せたがり、物を贈りたがり、会話をしたがった。
食堂でグレンと向かい合って座れば、ネイが複雑そうな顔で給仕をしてくれる。他の使用人達も以前のグレンを知っているだけに、屋敷には妙な緊張感が漂っていた。
それに気づいているのかいないのか。グレンはしらっとした顔で卓上に並べられた料理を平らげていく。リゼルもスープを飲み、ちまちま食べ進めた。
騎士であるグレンと日がな一日屋敷で過ごすだけのリゼルでは、食べる量もスピードも違う。大抵グレンの方が早く食べ終える。
しかし、今の彼は遅々としたリゼルの食事に嫌な顔一つしない。食後のワインを優雅に傾けながら、のんびりとリゼルを眺めているのだった。
「リゼルは今日、どう過ごしていた?」
やっとデザートの苺タルトに取りかかっていたリゼルは、ぽかんとして手を止める。
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