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その悲しい別れを思うと、昨夜、王立騎士団の団長として赴いた魔獣退治の最中、頭を強く打って意識をなくしたと屋敷に運ばれてきた夫に対し、楽観的にはなれなかった。
心配の視線をグレンに向けるリゼルに、ネイが拗ねたように唇を尖らせる。
「これはリゼル様がそれほど御心を砕かれるほどのことですか? 失礼ながら、旦那様はリゼル様にとって別に良い夫ではないではありませんか」
もしグレンが起きていれば、叱責の一つは免れない発言だった。リゼルはぎょっと目を剥く。
「ほ、本当に失礼よ」
「でも事実ですから。ご結婚から一度でも、旦那様がリゼル様に優しい言葉をかけたことがございましたか? お名前さえ呼ばれたことがないのでは? リゼル様がこんな仕打ちを受ける謂れはないのに」
ネイはつんと鼻をそびやかす。リゼルの生家から連れてきたネイは、屋敷の主人よりも断然リゼルの味方だ。
けれど、とリゼルは力なく首を横に振る。腰まで伸ばした長い白銀の髪が、遅れてゆるゆると揺れた。
「仕方ないわ。私たちの結婚は……お互いに望んだものではないもの。ネイもそれは知っているでしょう?」
ネイがぐっと言葉を詰まらせる。グレンの顔に目を落としたまま、リゼルは自分の結婚のあらましを思い返した。
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