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「旦那様は団員の方々を大切になさっていて、皆様にも慕われている、のですね……」
「共に死線をくぐる仲だからな。否が応でも絆は深まる」
いいなあ、と素直に思った。リゼルはそんな風に、対等に親しく付き合う関係を築けた経験がない。ネイとは仲が良いし、彼女のことは大好きだけれど、それはやはり主従を前提とした仲だ。
グレンがグラスを持ち上げ、軽く揺らしてから一口飲む。濡れた唇の端にちらと苦笑が滲んだ。
「リゼルには、もう少し格好のつく話を聞かせたかったんだがな。生憎と手持ちがなかった」
「私に格好をつけてどうするのですか?」
そうは見えなかったが、割と見栄を張りたい性質なのだろうか。小首を傾げるリゼルに、グレンがむっと口を尖らせる。
「リゼルに俺を好きになってもらいたいから。それ以外にあるか?」
「え、あ、そう、ですか……」
「で、リゼルは今日、何していたんだ。くだらない話で良いから聞きたい」
「え、ええと。では、そうですね……。今日はネイと――」
フォークを握り直し、緊張で渇く唇を舌で湿しながら、内心リゼルは頭を抱えていた。
(こ、こんな状況、とても受け止めきれないわ!)
胃がしくしく痛み始める。屋敷の料理人が腕によりをかけた苺タルトは絶品のはずなのに、ちっとも甘さを感じられなかった。
心労の限界だった。
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