6 魔法庭園へようこそ

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 元は温室だった場所に結界を張り、薬草を植え、小川を流し、春風を吹かせ、魔力炉を置き、ささやかだが居心地の良い庭を作り上げてみせた。 「さて、と……あら?」  魔法庭園の真ん中に据えた魔力炉――元々は温室を温めるための暖炉だ――を見ると、魔力の炎の光が弱まっていた。この魔力炉の力によって魔法庭園の環境は保たれているから、炎を絶やすことは絶対にできない。  リゼルは懐から短剣を取り出すと、躊躇なく髪を一房切り、魔力炉に投じた。  途端、微睡むようだった炎がごうと音を立てて燃え上がる。弱々しい橙だった炎色も、一等星にも負けない白色に変わって輝き始めた。  風が吹き寄せて、不揃いになったリゼルの髪をさらさらと揺らしていく。眩い炎に満足したリゼルは、近くの長椅子にちょこんと座り手足を伸ばした。  リゼルの髪を食らった炎が、ぱちぱちと爆ぜて夜闇に金の火の粉を舞い上がらせる。  これが魔法の本質だった。  魔法を使うには、術者の一部が必要になる。爪でも髪でも血でもいい。それが魔力に変換され、唱えた祈りは世界の理を覆していく。  奇跡を願うには、相応の代償がいるのだ。  リゼルはそうっと、グレンにもらった花束を取り出す。花びらが丸まっていたが、様々な薬草に囲まれた中でも、その清冽な香りはいっとう芳しい。 (……もしも、この花を永遠に生かそうとすれば、何が必要になるかしら)
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