6 魔法庭園へようこそ

5/6

208人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
 現に庭園に張り巡らせた結界も、グレンだけは例外としている。お飾りの妻である以上、彼の屋敷に彼の入れない場所を作るのは憚られた。 「だが、ここは魔法庭園だろう。他人がおいそれと踏みこんでいい場所ではないはずだ」 「え……」  グレンの口から飛び出した単語に、リゼルは目をぱちくりさせる。この国において魔法は学問の主流ではない。まさか騎士である彼が魔法庭園を知っているとは思わなかった。 「ど、どうしてそれを? よくご存知ですね」 「俺の書斎には、魔法についての書物が揃えてあった。おそらく、妻に関わる事項だから調べたんだろう」  近くを流れる小川の水音が急にざわざわと耳につく。知らなかった、そんなこと。 (でもよく考えれば、それも道理だわ)  同じ屋根の下に住む得体の知れない女の正体を知ろうとするのは当然だろう。寝首を掻かれる恐れもある。騎士団長である彼は王国の守護の枢要なのだ。万が一にも欠けるわけにはいかない。  ふんふんと神妙に得心するリゼルを、グレンは目をそらさずに見つめ続けていた。腕組みして戸口にもたれたまま身じろぎもしない。その足を包む革靴の爪先は、庭園の手前で慎み深く待っていた。 「――書物には、魔法庭園とは魔女にとってとても大切なものだと書かれていた。そんな場所を、土足で踏み荒らしたくはない」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加