6 魔法庭園へようこそ

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 ふいに投げられた実直な声に、リゼルは息を詰める。音もなく燃え続けるランタンがグレンを照らしつけ、ゆったりした瞬きに合わせて揺れる長い睫毛の影まで見てとれた。  だからわかってしまった。彼は嘘をついていない。  どんな思いがあったのかはわからないが、冷徹だったグレンが魔女について調べていたのは事実。  そして今のグレンが、その知識をリゼルの心を慮るために使ったのも、また事実なのだった。  心臓が引き絞られるように痛んで、リゼルは長椅子の側に立ち尽くす。こんな風にリゼルの大切なものを同じように大切にしてもらえることは、とても稀だった。祖父とネイ、それだけ。リゼルの世界は、それくらい、狭い。  ふと、グレンが魔法庭園を散策するところを思い描いてみる。どうしてかその光景はとびきり美しく映って、気づけば、柔らかな絹製のドレスシューズを履いた足を踏み出していた。  一歩一歩、地面の感触を確かめるように入口まで歩いていき、グレンの前に立つ。彼の面差しはずっと凪いでいて、少しも急かす様子はなかった。  早鐘を打つ心臓を宥めるように、すう、と深呼吸を一つ。それから客人を招くが如く、できる限り丁寧に腕を伸べた。 「……どうぞ、旦那様。ようこそ私の魔法庭園へ」
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