7 夜の会話

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「あのとき、リゼルがあまりに不安そうな顔をしていたから。俺がそんな思いをさせていると考えたら、堪らなくなった」 「そう、でしたか……?」  リゼルは自分の頬に手をやる。無自覚だった。そんな風に、心配させていることにも。 「だから今は、少しでもリゼルの不安を取り除いてやりたいと思っている。だが上手くいかないものだ。剣ばかり振るってきたから、女性の慰め方などわからない。リゼルは酒場で酒を奢っても喜ばないだろうし」 「そうですね……私はお酒を飲んだことがありません」  とある魔法系統では『生命の水』などと呼ばれるそれに興味はあるが、機会がなかった。実家ではもちろんのこと、コーネスト邸でも食後の酒を供された覚えがない。時々感じるが、この屋敷の善き人々はリゼルを小さな子供だと思っている節がある。「そうだったのか。それなら今度、とっておきの一本を空けよう」と微笑むグレンの目は優しい。  それにしても、とリゼルは首を捻る。緩んだ空気につい口が滑った。 「旦那様が、女性に不慣れとは驚きました」  グレンの眉間に、ぐっと深い皺が刻まれる。あ、しまったと臍をかんだ時にはもう遅い。彼は怒っているというほどではなさそうだったが、決して愉快そうではなかった。リゼルのこめかみに汗が滲む。 「……そう思われていたとは心外だな。かつて俺がそういうことを言ったか?」
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