7 夜の会話

3/10

206人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
「め、滅相もございませんっ。ただ……」  リゼルはつくづくと目交いの夫の顔を眺めた。蜂蜜を溶かしたような金の髪、すっと通った鼻梁に、鋭い光を放つ翡翠色の瞳。それらが完璧に配置された端正な顔は、凛とした佇まいも相まって、魔法庭園ではなく美術館に一幅の絵画として展示されている方が似つかわしい。  改めて、なぜこの人がリゼルの夫なのかよくわからなくなってきた。いや祖父の約束のせいだが。でも他のご令嬢から引く手数多ではなかったのか。  グレンは不機嫌そうに、むっすりと押し殺した声を出す。 「この顔で生まれたからと言って、社交界で派手に遊び回っていたわけではない。そんなことより騎士として剣術を磨きたかった。それがコーネスト家に生まれついた俺に課された役目だからだ」 「役目……?」 「そうだ。コーネスト家の人間は、代々魔獣から民を守ってきた。人々の安全には欠かせぬ職務だ。それを思えば、俺だけが無責任に放り出すわけにもいかない。放り出したいと思ったこともないがな」  語り口はまっすぐで、彼がいかに騎士団長としての任務を誇りに思っているかひしひしと伝わってきた。軽々しい自分の発言にいたたまれなくなって、リゼルはしゅんと肩を縮める。 (旦那様は、ご自分のお役目を大切にする、とても真面目な方なのね。それなのに私はなんて愚かなことを……)
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

206人が本棚に入れています
本棚に追加