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思えばリゼルだって、マギナ家の魔女なのに〈鳥の目〉を持って生まれてしまった。器と中身は別のものと、よく知っているはずなのに。
「憶測で決めつけたことを申しあげてしまい、大変申し訳ございませんでした」
しおしおと頭を下げようとすると、「よせ。俺も頑なになりすぎた」と制される。グレンはしかめ面で、しかしどこか拗ねたように言った。
「女好きなどと誤解されたくはなかったから、つい。俺は社交嫌いで、舞踏会に出るくらいなら魔獣を百匹相手にした方がマシだというのに」
「そんなに、でございますか」
冗談めかした物言いだが瞳は真剣味を帯びており、語調は端々まで苦み走っていた。
「どうしてそこまで社交がお嫌いなのですか?」
見た目に惹かれた女性がわらわら寄ってきて迷惑だから、と切り捨てるには根深い雰囲気もある。問えば、グレンの顔つきが苦くなった。
「……聞くか? さして楽しい話でもないぞ」
「よろしければ、お聞かせください」
リゼルはちょこんと座り直し、膝をグレンに向ける。思えば一年も結婚生活をしていたのに、夫のことを何にも知らないのだ。今まではそれでよかった。でも今は、彼の輪郭を形作るものに、指を伸ばしてみたかった。
「変わっているな」と呟くと、グレンは一度咳払いをして訥々と語り始めた。
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