7 夜の会話

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「まず家族の話をさせてくれ。……俺の母親は後添えなんだ。前妻は若くして流行病で亡くなってしまったそうだ。とはいえ、後妻を娶るのは貴族にはままある話だ」 「まあ……。旦那様にはお兄様がいると伺いましたが、その方とはどのような仲で?」 「異母兄だ。この兄が優秀で、家督を継いでくれるから、俺は騎士の道に進めた。もし俺が最初に生まれて、騎士ではなく当主になれと言われていたら、おそらく俺は当主の務めなど果たせなかっただろうな。向こうも剣術はからきしだから、兄弟仲はさほど悪くない」 「素敵ですね」  最悪の姉妹関係を持つリゼルからすれば、羨ましい限りである。しかし、ここからグレンの社交嫌いにどう繋がるのだろう。 「母が嫁いだ後も、父は前妻を深く愛していた。もちろん母を蔑ろにするようなことはなかったが、当人には堪えたんだろう。母は、どうしても父から愛されたいと渇望するようになった。もとから夢見がちな人ではあった」  グレンは足を組み、憂鬱そうに肘掛けに肘をつく。 「父は善処していた。高価な贈り物をしたり、ともに晩餐会に出たり。だが母は満足していないようだった。おそらく、母が求めていたのはそういうものではなかったのだろう」  話の行方にあたりをつけて、リゼルは呟いた。 「お父上からの愛……が、欲しかったのでしょうか」 「それなら、もっと話は簡単だったな」
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