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グレンが苦笑する。それから過去を見晴るかすように、遠くへ目線を投げた。
「何をしても父から愛してもらえず、母は次第に心を病んでいき、いつしか俺にあたるようになった。自分が愛されないのは、お前が生まれたせいだと言って。どうやら子供が生まれなければ、父の気を引けたと思い込んでいたようだな。出産で容色が衰えたとも思っていたらしい」
それが何でもないような口調だったから、リゼルは胸をつかれた。無意識のうちに両手を組み合わせる。理由は違っても、家族から疎まれる痛みは知っていた。
「酷いことを……そんなわけないのに……」
血の気の引いたリゼルに、グレンは緩く首を振る。炉の炎が風に押されてたわんだ。足元まで飛んできた火の粉が、地面に落ちて光を失った。
「もう過去の話だ。心を痛めなくてもいい」
「ですが……」
「いいから、聞いてくれ。……それでも父が母を女性として愛することはなかった。とうとう痺れを切らした母は、よその男と不倫を繰り返すようになった」
「……えっ? なぜでしょうか」
心の動きが全くわからない。彼女が愛しているのは夫ではなかったのか。
「母が本当に欲しかったのは、父からの愛情ではなく、何をせずとも自分を愛してくれる男だったんだろう」
グレンが唇の端だけを吊り上げ、皮肉っぽく笑う。リゼルは小首を傾げた。
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