7 夜の会話

6/10

207人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
 グレンが苦笑する。それから過去を見晴るかすように、遠くへ目線を投げた。 「何をしても父から愛してもらえず、母は次第に心を病んでいき、いつしか俺にあたるようになった。自分が愛されないのは、お前が生まれたせいだと言って。どうやら子供が生まれなければ、父の気を引けたと思い込んでいたようだな。出産で容色が衰えたとも思っていたらしい」  それが何でもないような口調だったから、リゼルは胸をつかれた。無意識のうちに両手を組み合わせる。理由は違っても、家族から疎まれる痛みは知っていた。 「酷いことを……そんなわけないのに……」  血の気の引いたリゼルに、グレンは緩く首を振る。炉の炎が風に押されてたわんだ。足元まで飛んできた火の粉が、地面に落ちて光を失った。 「もう過去の話だ。心を痛めなくてもいい」 「ですが……」 「いいから、聞いてくれ。……それでも父が母を女性として愛することはなかった。とうとう痺れを切らした母は、よその男と不倫を繰り返すようになった」 「……えっ? なぜでしょうか」  心の動きが全くわからない。彼女が愛しているのは夫ではなかったのか。 「母が本当に欲しかったのは、父からの愛情ではなく、何をせずとも自分を愛してくれる男だったんだろう」  グレンが唇の端だけを吊り上げ、皮肉っぽく笑う。リゼルは小首を傾げた。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加